「廃漁網素材から製造した鞄の発表会~海洋ごみ問題への解決糸口~」開催報告

「廃漁網素材から製造した鞄の発表会~海洋ごみ問題への解決糸口~」開催報告

ALLIANCE FOR THE BLUE(以下AFB)は、公益財団法人日本財団が主催する「廃漁網素材から製造した鞄の発表会」に参加し、昨年より協働プロジェクトの一つとして、リファインバース株式会社、住江織物株式会社、モリト株式会社、兵庫県鞄工業組合と取り組みを進めてきた「廃漁網を活用した鞄づくりプロジェクト」の成果を発表しました。会場には主催者である日本財団関係各社に加え、来賓として環境大臣小泉進次郎氏をお招きし、応援メッセージをいただきました。当発表会は、コロナウイルス感染症の対策のため、参加者は主催者、講演者、トークセッションのパネリスト、マスコミのみとし、基本的にYouTube配信によるオンライン形式での開催となりました。
また、合わせて廃業網を活用した鞄の展示会も実施。モリト社が製造した廃漁網を活用した布やテープ、ボタンなどの素材や、兵庫県鞄工業組合各社が製造した約40種類の鞄をお披露目しました。笹川会長、兵庫県鞄工業組合由利理事長のご案内のもと、来賓としていらした小泉大臣も見学されました。

海洋国・日本は海洋を1000年先の未来に引き継ぐため守っていく
主催者として登壇した公益財団法人日本財団会長の笹川陽平氏は、「地球の7割を占める海洋の存在は大きく、500年そして1000年先の海洋の持続可能な環境を作れなければ、人類の生存はない」との見解を示され、「従来廃棄していた漁網をリサイクルし、高付加価値の商品となりお金になると、廃棄されなくなる。こういう素晴らしい知恵がごみ対策のモデルになる」「また、付加価値を付けた魅力的な商品開発を多くの熱心な企業と進めているが、更に多くの企業とネットワークを組んで情報と知恵を出し合い活動を加速すれば、海洋プラゴミ問題解決のモデルケースとして世界に発信していきたい。そうすることで、世界の海洋問題、ごみ問題の解決への糸口が出来ると考えています。」とコメントをお寄せいただきました。

(環境大臣 小泉進次郎氏)
身近な所から気候変動や海洋プラスチックごみの問題を考える環境づくりが大切
廃漁網を活用した鞄の愛用者でもある小泉進次郎環境大臣は、「この鞄のような廃漁網を活用したアップサイクル商品が身近になることで、気候変動やプラスチック問題解決への取り組みを前向きなものとしてより多くの人に感じてほしい」と訴え、今年3月に閣議決定された「プラスチックの資源循環促進に関する法律」や、環境に配慮された商品を国が認定することで、消費者が環境負荷の低い商品をより選びやすくするための「環境配慮設計制度」の意義を説明されました。その上で「多くの皆さんが前向きに気候変動や環境の問題に取り組めるよう、環境省としてもこれからも日本財団と連携を深めていきたい」と応援メッセージをいただきました。

(兵庫県鞄工業組合 理事長 由利昇三郎氏)
持続可能な社会実現のために企業がやるべき責任がある。
兵庫県鞄工業組合理事長の由利昇三郎氏は、「組合としてどのようにSDGsに取り組むかを模索していた。その中でAlliance for the Blueと知り合い、漁網を再生した生地を鞄にするプロジェクトに参加し、(本日発表の)鞄が出来上がった。」「漁網を再生した生地を使った鞄は、モノを大切にするというメッセージが込められている。このメッセージを伝えていくことで企業としての責任を果たしたい」と述べられ、今回の鞄の制作を通じ、ただ単にモノを作り、売るだけではなく、持続可能な社会を作るために企業が果たすべき責任というものを実感できたと、活動の意義を共有いただきました。

「企業間アライアンスの成果と廃漁網を素材とした鞄作り(アップサイクル)に向けた各社の取り組み」 (トークセッション)
廃漁網を活用した鞄づくりに携わったリファインバース株式会社、住江織物株式会社、モリト株式会社の協働企業から各社の取り組みを紹介いただき、消費者の代表として女優の鉢村杏奈さん、AFBの堀口とともに活動の成果や今後の課題を議論しました。なお、このトークセッションでは、非営利ウェブマガジンを発行されている、NPO法人グリーンズの理事で編集長の兼松佳宏さんに進行をお願いしました。

参加者は以下
公益財団法人日本財団 常務理事 海野光行氏
リファインバース株式会社 常務取締役  加志村 竜彦氏
住江織物株式会社 経営企画室 グループリーダー 増田 大輔氏
モリト株式会社 執行役員 事業戦略本部 森 弘義氏
一般社団法人ALLIANCE FOR THE BLUE  代表理事 堀口 瑞穂
女優・タレント 鉢嶺 杏奈氏

公益財団法人日本財団 常務理事 海野光行氏
・ 今回の鞄は、北海道厚岸町で廃漁網の回収・分別・減容を行い、リファインバースにてそれらを洗浄・裁断・ペレット化し、住江織物やモリトで紡糸や織布・加工を、そして豊岡鞄で最終製品として仕上げられ、完成した製品。
・ 透明性のあるトレーサビリティーを重視しており、漁網が商品になるまでの工程を公開している。また、製品における漁網の配合率は、より多くの消費者に届けることと、関わる多くの人が収益を得られるようにするため16~25%とした。
・ 今回の成果は、①企業がアライアンスを組み廃漁網を再生した商品を完成させたこと、②これまでは焼却・埋め立てされていた廃漁網を資源として活用することで地域課題の解決に貢献したこと、③日本最大の鞄の産地である豊岡(兵庫県鞄工業組合)と協働することで市場価値を高め消費者に訴求できたこと。の3点だと考えている。
・ 今後強化していくポイントとしては、より多くの企業でこの生地を採用いただくこと、コストを改善するための技術革新を進めること、廃漁網を効率的に全国から集めるためのシステム構築を進めることの3点である。

リファインバース 常務取締役 加志村竜彦氏
・ リファインバースは、さまざまな廃棄物を独自の技術を活用しリサイクルしており、漁網に関しても20年近く回収やリサイクルに取り組んできた。
・ 漁網には、海水による塩分や汚れはもちろん、目に見えない細かな汚れがある。それらの除去に苦労しており、今後Alliance for the Blueと協力をして技術革新や原料に質の向上に取り組みたい。
・ これまでのリサイクル商品は「安かろう悪かろう」といったイメージがあり、採用も目に見えないものが中心だった。今回の鞄という形で、私達の材料を使いこなしてくれて嬉しい。また、多くの企業の協力でスピーディーに開発できたことも大きな成果である。

住江織物株式会社 経営企画室 グループリーダー 増田 大輔氏
・ タイルカーペットやペットボトルを原料として、リサイクル商品の製造に取り組んでいる。
・ 今回のプロジェクトでは漁網由来のナイロンの糸作りとそれを使った生地作りを担当した。工程としては、リファインバースで作られた漁網由来のペレットとバージンのナイロンのチップを半分ずつ混ぜて糸にした。漁網はペットボトルなど他の素材と比べて汚れがあり、糸作りの際に苦労はあったものの完成した商品(鞄)を見て感激した。
・ 漁網由来の再生ナイロンを今回初めて実用化できた。今後リサイクルや再生材料を使ったモノ作りは大切であり、パートナー企業とバリューチェーンの中で取り組めたことは非常に良かった。今後も積極的に参画したい。

モリト株式会社 執行役員 事業戦略本部 森 弘義
・ モリトはアパレル資材や生活産業資源を提供する会社であり、リファインバースと共同で廃素材を活用した糸付ボタンやコードストッパーなどを開発した。その後はテープやスピンドルゴム系資材、今年3月には生地を完成させ、これらを兵庫県鞄工業組合に提供した。
・ その際、重要視したことは、再生樹脂「リアミド」の使用比率の明確化、機能性とファッション性を持たせることで消費者が使いたくなるようなデザインとすることで、長く使っていただき、サステナビリティに貢献することである。
・ 今後は今回の成果でもあるナイロン素材を使用した製品づくりにさらに力を注ぎ、アップサイクルにつなげたい。また日本全域で廃漁網の回収や再生に取り組みをリファインバースとの協働を更に進めたい。さらに、今回の取り組みを通じて知り合った豊岡鞄のみなさんと豊岡の海をきれいにする清掃活動等も行っていきたい。

一般社団法人ALLIANCE FOR THE BLUE  堀口 瑞穂
・ Alliance for the Blueは、海洋環境の保全と経済性を両立できる持続可能な社会を目指し、新たなモノづくり・仕組みづくりを挑戦する場の提供を行う。また企業と消費者を結びつけるハブとして機能し豊かな海を次世代に引継ぐことがミッション。
・ 海への想いを持ち、事業を通じた海洋保全を目指す共同企業を31社集めた。さまざまな企業の得意分野を発揮し新たな製品を作る際の潤滑油として機能した。
・ 廃漁網を活用し、かつ製造プロセスのトレーサビリティーも明確なこれらの商品を「Product for the Blue」という目印をつけて販売する。
・ 海洋プラスチックごみ問題について、現状の日本の企業は海外ほど切迫感を持っておらず、対応が遅いという印象がある。今回はプロジェクトに関わった皆さんの頑張りで、このスピード感を実現できた。今後はより多くの企業を同時多発的に巻き込み、資源の供給先を増やしていきたい。
・ 今後は、クラウドファンディングや、イーコマ―スを活用して豊岡の鞄を海外で売るモデルも我々で考えていきたい。
・ また、諸外国と比べると、我々のような活動に対しての投資など金融サイドの支援も不足している。これでは海外と同じスピードではやっていけないため、充実させる必要がある。

女優・タレント 鉢嶺 杏奈氏
・ 漁網がどのように処理されているかこれまで聞いたこともなかった。今日どう処理され、素敵な鞄が出来たことを知り、多くの方の想いが詰まった興味深い取り組みだと思った。
・ 先ほどトレーサビリティーという言葉があった。商品を買うときに、モノそのものだけでなくモノが作られていく過程を知り、それらを理解した上で購入していくことが大切だと思った。このような取り組みをぜひ加速してほしい。
・ 冒頭日本財団の海野さんから「調査の結果、課題も見つかった」という話があったが、詳しく教えてもらいたい。
・ 主婦として、商品の背景に目を向けることは非常に大切だと感じた。また、私は現在妊娠をしており、自分の行動が子供に影響を与えると実感するようになってきた。次世代を守るためにも大人としてしっかりと判断していきたい。

公益財団法人日本財団 常務理事 海野光行氏
・ 調査の結果、海洋プラスチックごみのうち、漁業ごみの占める割合は容積比で30%、ブイやその他漁具を加えると50%になる。さらに漁網は海に流出すると約600年滞留し、次の世代に多くの影響を与える。したがってそれらが海に流失しないようにするアプローチが必要である。
・ 漁網に関しては、現在どのように処理されているか詳細は不明だが、ほとんどが焼却・埋め立てされており、一部は放置され流出に繋がっている。
・ 漁具や漁網の循環利用をすすめるためには、業界の枠組みを超えた協業、ニーズ・品質・価格のバランスをとることが重要であり、そのために今回のAFBのような取り組みが必要である。
・ 環境に対して何か行動をおこしたいと考えている企業が近年多くなっているが、具体的にどのようなアクションを起こせば良いのか分からない企業も多いと聞く。今回の廃漁網を活用した鞄づくりは、企業が取り組むことが出来るとても良いアクション事例の一つだと考えている。
・ また、企業だけでなく市民も、こういう商品(漁網バッグ)を使ってもらうことで間接的に環境問題への取り組みを一歩進めることができる。アクションのきっかけにしてほしい。

発表会の様子は、NHK「おはよう日本」やテレビ東京系列「ワールドビジネスサテライト」他、多くのメディアで取り上げられ、その後さまざまなお問い合わせや応援メッセージが事務局まで寄せられました。

Alliance for the Blueは、今後も「海洋環境保全に貢献する商品(Product for the Blue)の開発支援」を加速すると共に、「科学的な情報の収集と配信」「子どもや消費者の教育」「Product for the Blueの認定、販促支援」を進めて参ります。

※展示会の様子